MYTP

このスペースは、東京都渋谷にある企業のためのプロジェクトスペースとして計画された。一人で作業をするための静かな執務空間ではなく、ブレインストーミングや議論を行うことを目的とした活動的な場所である。フロアは隣接する首都高と同じ高さにあり、窓の外では車がハイスピードで行き交い、まるで地上階にいるような錯覚を起こす。外の景色と同じように、中では多種多様なプロジェクトが目まぐるしく交錯するため、それを受けとめる空間の機能が要求された。

フロアは長期的な研究プロジェクトのためのスペースと、沢山のプロジェクトが短期間集中的に使用するいわゆるウォールームとしてのスペースに分けられ、それぞれのスペースはガラスのパーティションで区切られている。規模も期間も多様なプロジェクトが同時多発的に動いている様子をお互いが感じられるように、フロア全体を見渡せるようにした。

ウォールームは、十字型の木製土台によってさらに4つの小さいエリアに区切られている。プロジェクトの数がスペースの数を圧倒的に上回っているため、各プロジェクトは軽くて持ち運びができるポリカーボネートのパネルを複数枚「所有」し、土台に挿すことで一時的にブレインストーミングの為の壁を作り、使用時間が過ぎるとパネルを外して次のプロジェクトと交代するという循環の仕組みを提案した。また、机や椅子を通常より高くして立ち上がりやすくすることで、壁面を利用した活発な議論が生まれやすくなるよう工夫している。

ウォールームではカラフルなポストイットやマーカー、ラボスペースではパーツや工具類など。このフロアでは時間とともにとにかくものが増え、煩雑な雰囲気になってしまうことが予想されたため、空間はできるだけ大胆でシンプルに構成して、ものがあふれてもそれを許容するような骨太でおおらかなデザインを心掛けた。スペース内に転がっているパネルを差し込む土台やガラスのパーティションの基礎、また窓際のベンチには、日本家屋の大黒柱として使われる、一辺が一尺(約30cm)のマツの無垢角材をそのまま使用し、空間を特徴づけている。注意深く金物を使用することで、粗々しい素材感と繊細なディテールを共存させた。

壁や天井は既存のまま使用し、ベース照明はシームレスのライン照明を天井スラブの入隅に沿って配置することで建築と一体化させ、照明器具が無数に天井に現れてノイズになることを避けた。

また、木や銅、リノリウム(天板)といった、使い込むことで味のでる素材を多く使うことで、手触りや使い心地が活動に馴染んでいくように意図している。

部屋の中央に位置している壁面は、設計段階で用途が定まっておらず、使い道も次々に更新されていくことが想定されていた。そこで壁面からグリッド上にジョイントのメス側を設置し、雄側を3Dプリンターで要求に合わせてその都度制作することで、フレキシブルに壁面をハックすることができる仕組みを考えた。ジョイントには伝統的な継手と呼ばれる大工仕事を用い、繊細な手仕事と最先端の技術を掛け合わせている。スペース全体のコンセプトである、あえて最後まで決め切らず使い手に委ねるデザインを家具レベルのスケールにおいても実現させた。

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Arup (アラップ)

建築・インフラや都市を対象に、総合的な技術設計、それに伴うコンサルティング業務を提供する国際エンジニアリング・コンサルティング会社。世界34カ国、89の事務所に14,000人以上のスタッフを擁する。日本では約30年にわたり活動、国内外に様々な業務実績を有し、国内の優れた技術を海外展開する業務にも注力する。

その後このプロジェクトにあらためて興味を持ったのは、岩を岩の上に載っけるというシンプルな目的のために、最先端の技術の粋が集められていることを知ったからだ。しかもそのエンジニアリングを担当したのは、世界中のチャレンジングな建築を実現へと導いてきた世界最高峰の技術設計集団Arupだという。