- 2021-2022
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建築と、それを使う人との、ちょうどいい距離感に興味がある。
北海道、札幌。中心部から車を20分ほど走らせた盤渓地区の22ヘクタールの森林を敷地として、お菓子メーカー・ユートピアアグリカルチャーが運営する牧場を設計した。まずはその第一段階として、厩舎、牛舎、鶏舎と卵の直売所などが設置された。
動物や植物を扱う牧場に必要とされている機能は、原則としてとてもシンプルでプリミティブなものだ。そんな場所に、建築ができることはなんだろう。慣れ親しんだ一般的な牛舎や鶏舎と違うものになったら、使う人がアレルギーやハレーションを起こさないだろうか。そんなことを悶々と考えながら盤渓の山の中を歩いていると、地元の農家がセルフビルドで建てたかわいらしい農作業小屋を見つけた。
ビニールシートの屋根と丸太柱だけでつくられた、トラクターと農作業用具が最低限おさまるサイズの小屋。梁からはにんにくや玉ねぎが吊るされている。それはまるで熟練の職人が使う、工夫の詰まったオリジナルの道具みたいで、とても「しっくりくる」光景だった。この小屋の延長線上に、今回の牧場のあるべき姿が見えた気がした。
建築の骨組みとして、北海道を拠点にしている農業用パイプハウスのメーカーと既製品をベースにした特注のフレームを開発した。骨組みに取り付けるオプションパーツは農業用ホームセンターなどで簡単に手に入るので、開口部を追加したり、ネットを張ったり、建具を取り付けたりするなど、運用しながら必要に応じて自分たちで機能を拡張できる。
メインの外装材として、銀色の熱線反射シートを用いている。熱負荷を軽減しつつ、一定間隔で透明なビニール素材に切り替えることで、室内に日光が入るようにした。夏季はオペラカーテンみたいにシートを束ねることで風通しをよくしたり、冬季には閉じることで断熱性能を上げたりできる。牧場の一角は卵の無人販売所になっていて、オリジナルの自動販売機を設置した。機構はできるだけシンプルにすることで、何かあった時に自分たちで簡単に直せるような設計になっている。
この牧場ではただ乳や卵を採るだけではなくて、山で牛や馬を放し飼いにすることで、森林の生態系を活性化しようとする循環型酪農の実証実験も行っている。牛や馬が山の中で自由に歩くと、堅い蹄で土が適度に撹乱されて土中の栄養素の循環が進むという。更に生い茂った笹などを食べることで、抑制されていた下草の成長を助けたり、埋もれていた多種多様な種が芽吹いたりして、森全体の生態系の循環が活性化することが期待されている。
鶏もできるだけ低密度で野生に近い環境での飼育が試みられている。鶏舎内には実験的に植栽帯を設け、ハスカップやエゾノコリンゴ、ヤマワサビやイタドリといった北海道原産の草木やハーブなどを数十種類、混成密生で地植えした。鶏たちは飼料の他に、果実や草花、それに集まる虫などをおやつとして食べている。
動物や植物を相手にする以上、不測の事態は必ず起こる。その時その時で、状況に応じて使う人が能動的に工夫しやすい空間であることが、この牧場には求められていた。工夫を重ねていくことで、使いやすくなるだけでなく、この場所らしさが熟成されていくような。そんな、いい道具みたいな建築を目指した。
主要用途:牧場
設計・監理:DOMINO ARCHITECTS
協働:シード一級建築士事務所、銅銀一真
植栽計画:片野晃輔
自動販売機設計施工:nomena
パイプハウス施工:丸二物産
写真:Gottingham, utopia agriculture
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