[A-028]HAKKO GALLERY/STUDIO

  • 2022-2025
  • Tokyo
    Iidabashi

東京は飯田橋。多くのデザイナーや写真家から信頼されている印刷会社、八紘美術の最上階に、ライブラリー/ギャラリー/工房/応接室を複合した空間を設計した。

印刷と建築と聞いて頭に浮かぶもの。木目調のフローリングに大理石調のタイル。壁紙にカーペットにフィルムにシート。見渡せば、床・壁・天井ぜんぶ、印刷された建材で囲まれていたなんてことも珍しくない。

遠くからぱっと見ただけでは、簡単には本物と見分けがつかない。近くで目を凝らしてみてはじめて、C(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(キープレート/ブラック)の4種類のインクの網点が見えてきて、それが印刷されたものだと気がつく。ウォールナットやチェリーに見えていたものが、色の粒子の集まりとして現れてくる。

印刷物を覗き込むときの、少しづつ目の倍率が上がっていく感じ。パワーズ・オブ・テンみたいなこの感覚を、今回の設計に取り入れられないだろうか。

印刷物のチェックや色校正もする空間ということで、ノイズや色被りを抑えるために、窓ガラスには乳半のフィルムを貼り、壁の色はニュートラルなグレーとしている。そのグレーを、ペンキで塗装するのではなくて、CMYKそれぞれの色の粉末を混ぜた左官材を練って、砂壁みたいにコテで厚塗りしてみることにした。

CMYには日本画の岩絵具の粉を、Kには砂鉄を使っている。壁に砂鉄が混じっているので、印刷物を磁石で留めることもできる。CMYKの粒を混ぜていくと、色はグレーに近づいていく。ちょうど、いろんな色の繊維が絡まって床に落ちている埃が、どれも灰色なように。

部屋の印象としてはシンプルなニュートラル・グレーなのだけれど、近づいてまじまじと見つめると、凹凸のあるザラザラとした質感とともに、鮮やかな色の粒子が花火みたいに次々に目に飛び込んでくる。空間にとって、背景でもあるし、主題でもあるグレー。場面場面で、どっちに転んでもいい。

後から運用方針が変わってもいいように、部屋の中には新しい壁を立てずに設備/機械/家具のレイアウトだけで場所ごとの性格を作っている。

印刷の現場でよく見る、木製パレットにうず高く積まれた紙の束。そのまま、展示台としても作業台としても使える什器にしてみた。上に作品を載せたらギャラリーになるし、作業をすれば工房になる。天面が汚れても、一枚めくれば新品だ。ひとつ400キロ近くあるけれど、手動のフォークリフトで簡単に動かせる。印刷所では日常的な光景だという。その手慣れた所作で、今後も使いながら自分で空間構成を変えていける。

色にせよ、紙にせよ、そこにもともとあった文化の延長線上に載せるように空間を構築することに興味がある。ただ現実を少し変容しただけの、ありえたかもしれない未来みたいな、地続きのものがねじれたような空間の質を目指した。

主要用途:ギャラリー/工房
設計・監理:DOMINO ARCHITECTS
サイン計画:centre inc.
マテリアル開発:甲斐貴大 (studio arche)
パレット什器制作:カリモク家具
施工:株式会社フラット
写真:Gottingham

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