- 2023-2025
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六本木のデザインギャラリー、21_21 DESIGN SIGHTの企画展『ゴミうんち展』の会場構成。企画チームとして約1年半に及ぶ準備期間に参加し、展示内容を組み立てていった。
ゴミは捨てれば、うんちは流せば見えなくなる。無関心、盲点、見て見ぬふりといった様々な背景からこの世界のミッシングリンクになっているものたちを、「ゴミうんち」と呼んでみる。
それらの存在に目を向けると、これまで気づかなかった因果や連鎖、交換、循環といった不断の流れが見えてくる。万物流転、諸行無常。あらゆるものはいろいろな時間と空間のスケールの中で、何処かから来て、何処かへと行く途中にある。
展覧会に集められた作品たちは、会期を終えると丁寧に梱包されて作家のもとへと帰っていく。バラバラに存在していたものたちが、ある期間だけ一つの空間にまとめられて、またバラバラな状態に戻っていくイメージだ。
そのイメージを展示物だけではなくて、展示什器、展示壁、展示空間にまで拡げていったらどうなるだろう。集合と解散、構築と分解、キャッチアンドリリース。そのあわいの状態として、展覧会全体を捉えてみる。
会場を構成する壁や什器のほとんどを、リース品で組んでみることを考えた。
一般的に展覧会では、リースパネルと呼ばれるあらかじめ規格サイズで製作された頑丈な木製パネルを現場で組み合わせて、迅速かつ安価にブースや壁を施工している。会期が終了するとリースパネルは返却され、また別の展覧会での出番に向けて保管される。展覧会から展覧会へと使い回され、業界をぐるぐると循環しているこのリースパネルをそのまま積み上げて、空間を仕切るボリュームにしたり、什器として使ってみることにした。
そのままだと重々しいので、間に角材を挟んで隙間を作り、見通しと風通しを良くする。リースパネルの表面に生々しく残されたメモや傷、壁紙といった過去の展覧会の履歴や痕跡が地層みたいに積み重なって、空間に滋味深い風味を醸し出している。
今回、既存のリースパネルを全部かき集めても足りなかった分は、リースパネルと同じ規格のパネルを新規でどんどん製作して追加している。会期終了後は、新しいリースパネルとして流通の中に加わっていき、その分の古くなったリースパネルは廃棄される。ものを大事に長く使うことはもちろん大事だけれど、新しく作ることを否定するものではない。この展覧会をきっかけに、新陳代謝が促されるような仕組みを考えた。
箱馬を積んだだけの台座や、パレットを並べて柔らかい養生布を巻いただけのベンチ。備品のスツールを横に並べただけのデイベッド。施工中の現場でそこら辺に転がっていたものたちを、初めて見たような気持ちで無邪気に組み合わせただけの設えを沢山用意した。リースパネルを含めて、それらは会期が終了したらまた何食わぬ顔をして、元々のそれぞれの持ち場につくだろう。
どこかの展示の、どこかの壁の、どこかの面に、今度は「ゴミうんち」とマジックでメモ書きされたパネルが使われている。
そんなことを考えるだけで、少しワクワクしてしまう。
展覧会ディレクター:佐藤 卓、竹村眞一
アートディレクター:岡崎智弘
企画協力:狩野佑真、清水彩香、角尾 舞、蓮沼執太、吉本天地
会場構成:DOMINO ARCHITECTS
会場グラフィック:田上亜希乃
施工:HIGURE17-15cas
写真:小川真輝
21_21 DESIGN SIGHT ディレクター:佐藤 卓、深澤直人
アソシエイトディレクター:川上典李子
プログラム・マネージャー:中洞貴子
プログラム・オフィサー:安田萌音
参加作家:井原宏蕗、veig、岡崎智弘、小倉ヒラク、Alternative Machine、狩野佑真、北千住デザイン、ザック・リーバーマン、佐藤 卓、清水彩香、STUDIO SWINE、高尾俊介、竹村眞一、TatsuyaM、角尾 舞、デイブ・ホワイト、中山晃子、蓮沼執太、マイク・ケリー、松井利夫、山野英之、𠮷田勝信、吉本天地、他
ー世界は循環しています。さまざまな時間軸のなかで、ひとつのかたちに留まることなく、動き続け、多様に影響し合い、複雑に巡っています。その結果、いわゆる自然界においては、ゴミもうんちもただそのまま残り続けるものはほとんどありませんでした。しかし、いま人間社会では、その両者の存在は大きな問題となっていますし、文化的にもどこか見たくないものとして扱われています。ゴミ捨て場や水洗トイレは、まるでブラックボックスのように、私たちが忘れるための装置として機能してきたかもしれません。完全に消えてしまうものなんて、ないのにもかかわらず。
本展では、身の回りから宇宙までを見渡し、さまざまな「ゴミうんち」を扱います。そして、ゴミうんちを含む世界の循環を「pooploop」と捉えます。これまで目を背けてきた存在にもう一度向き合うと、社会問題だけではないさまざまな側面が見えてきました。すぐ燃やすのでも水に流すのでもなく、じっくり観察し、単純化せずに新しい態度で向き合うと、語りきれないほどの不思議や好奇心に出合えました。ゴミうんちという新しい概念をきっかけに、人工物のデザインも同じようにできないのかと考えた本展は、世界の循環に向き合う実験の場でもあります。決して止まることのないこの世界。欠けていたパーツがピタリとはまると、きっと新たなループが巡りはじめます。ー (開催概要より抜粋)