[A-037]portlove

  • 2025-2026
  • Tokyo
    Gohongi

独立して自分の店を始めるという美容師の渡邊将大が見つけてきた物件は、小さなお庭のある、外壁の青いタイルと玄関のガラスブロックが素敵な元歯科医院の建物だった。庭には金柑と椿と紅葉の木が植わっていた。

髪を切るときのことを考えてみる。

風が抜けて肌を撫でるといい。柔らかい光に包まれているといい。できたら窓際で、外をあてどなく眺めていたい。気流の鳴る音が聴こえるといい。オーボエのように甘くて、牧草地のように青い香りがするといい。シャンプーをするところはぼんやりと暗くて、ちょっと籠っている感じだといい。なんなら少し眠りたい。

明るい、暗い、暑い、寒い、乾いてる、湿ってる。場所ごとに備わっている微かな環境にフリーライドしながら、歯科医院を美容院にスライドさせていく。建物にばれないよう、いたずらみたいにこっそりと。

受付には手をつけずそのままに。北側の診察室では診察台をシャンプー台と入れ替える。歯科技工室はスタッフルームとして使おう。鉛で覆われたレントゲン室はボイラー室にちょうどいい。消毒薬や麻酔薬が並んでいた薬品調合台には、これからはしれっとパーマ液やカラー液が並ぶだろう。

庭を眺める大きな部屋には、カット用の座り心地のいい椅子を置こう。気候がよければ窓はぜひ開け放していてほしい。部屋を区切っていた大きな引き戸は外してしまって、替わりに鏡を嵌めてみた。鏡を支えるために立てた腰壁には、廊下のものとそっくりな木目調のプリント合板を、間違い探しみたいに貼ってみた。

追加で必要な家具は、ジモティやヤフオクでちょうどいいのを集めてきた。造り付けの戸棚や剥がれてしまった壁紙と一緒に、その場で補修してペンキを塗る。ホワイト、オフホワイト、緑がかったライトグレー、少しくすんだレモンイエロー。ペンキで何でもかんでも塗りつぶしてしまえば、時間も文脈もヒエラルキーも消滅して、今、ここ、これしかなくなってしまうのが気持ちいい。

しまいに、髪を切るときに頭からかぶる、美容院の「あのケープ」でカーテンをこしらえて部屋にかぶせた。空気をはらんで少し膨らんだ袋状のカーテンが、光や風を受けて柔らかくふんわりと動いている。

建築でもインテリアでも、空間ですらない。ただ環境の中で、髪を切りたい。

主要用途:美容室
設計・監理:DOMINO ARCHITECTS
テキスタイル:TEXTOILE
施工:松元工務店
写真:Gottingham

#hairsalon

in-use

Photography : Hiroyuki Hayashi